本記事について
理学療法士として日本代表チームにご帯同された経験や、選手として国際大会に出場経験を持たれる佐久間英祥さんから、怪我の基礎知識や予防についてのご寄稿を頂きました。
寄稿者紹介
佐久間英祥 Sakuma Hideyoshi
理学療法士/愛知県東三河ブロリック所属
2013年 男子U19世界フロアボール選手権 日本代表
2016年 男子世界学生フロアボール選手権 日本代表
2018年 男子世界フロアボール選手権 トレーナー帯同
目次
1.怪我の要因を知り、リスクを減らそう
スポーツをする上で、怪我のリスクは常に隣り合わせです。
この記事を読んでいる方にも、実際にスポーツによる怪我を経験された方や、その場面を目撃したことがある方は多いと思います。
ではどうしてリスクを背負ってまでスポーツを行うのでしょうか?
一般的にスポーツには、心身の発達・健康維持・体力増進・ストレス発散などの効果が高く期待されています。
また、スポーツ基本法の前文にもこのように規定されています。
「スポーツは、心身の健康の保持増進にも重要な役割を果たすものであり、健康で活力に満ちた長寿社会の実現に不可欠」
スポーツ庁 スポーツ基本法より引用
つまりリスク以上に健康面で得られるものが大きいということです。
スポーツで発生する怪我にはさまざまな種類があり、その要因も異なるため、怪我のリスクをゼロにすることはできませんが、怪我の要因を知り正しく予防することでリスクを軽減することはできるのです。
そこで、皆様にも長く競技者としてフロアボールに携わって頂きたく、怪我に関する知識や予防などについて、改めて一緒に考えていきたいと思っています。
2.どうして怪我は起きるのか
スポーツで発生する怪我には「スポーツ障害」と「スポーツ外傷」の2種類がありますので、まずはそれぞれの発生要因を覚えておきましょう。
①スポーツ障害(オーバーユース症候群)
まず「スポーツ障害」とは、体のある一定の部分に繰り返し負荷が加わることで発生する怪我のことで、疲労骨折やオスグッド、テニス肘などがあります。オーバーユース症候群とも言われており、使い過ぎが原因で起こります。
その要因として、過度な練習量や長すぎる練習時間など環境要因と、間違ったフォームや体の使い方などによる個人要因があげられます。
適切な練習量の考え方については(公財)日本スポーツ協会(旧体育協会)の「スポーツ医・科学の観点からのジュニア期におけるスポーツ活動時間について(文献研究)」を参考にすると良いです。
ここでは休養日を少なくとも1週間に1~2日設けること、さらに、週あたりの活動時間における上限は、16時間未満とすることが望ましいと書かれています。注意すべき点として、16時間未満というのは、そのクラブやチームにおける活動時間ではなく、個々の週あたりの活動時間ということです。
間違ったフォームや体の使い方については、日本ではまだフロアボールの専門書などがないため、何が間違いで何が正しいのか判断することは難しい現状です。しかしながら、膝関節、股関節を軽く曲げ、前傾姿勢で背筋を伸ばし胸を張った姿勢(写真1)が、良いフォームだと思われます。このような姿勢は「パワーポジション」と呼ばれ、さまざまなスポーツに取り入れられています。
②スポーツ外傷
次に「スポーツ外傷」とは体に大きな力が加わって起こる怪我のことで、足関節捻挫や膝前十字靭帯損傷、骨折などがあります。こちらもスポーツ障害と同様に環境要因と個人要因が考えられます。
環境要因としては床が滑りやすい、ボールが散乱しているなどがあげられます。実際に「ボールを踏んで捻挫した」というような例は少なくありません。環境要因の改善は比較的簡単にできる怪我の予防法ですので、ぜひみなさんのクラブではどうか見直してみてください。
個人要因としては筋力や体力、柔軟性、間違ったフォームがあげられます。特に競技レベルが上がり身体接触が増えると怪我のリスクも高まります。個人要因は普段の体づくりや正しいウォーミングアップを行うことにより改善することができますので、後ほどの項目で詳しく述べていきます。
3.どのような部位が怪我しやすい?
フロアボールでの怪我の発生部位については、国際フロアボール連盟(IFF)のホームページに掲載しているINJURY ASSESSMENT (IFF/英語ページ)で知ることができます。
IFFの調査結果によると
IFFでは2012年以降の国際試合において、怪我のデータを収集する取り組みを行っており、そのデータを元に「2012年から2015年までの国際フロアボールトーナメント中の怪我」という研究結果が公表されています。
研究結果の詳細として、多くの怪我は下肢(太もも、足首、膝等)で発生し、怪我全体の64%でした。
また怪我の発生部位・種類は足関節捻挫が全体の21%と最も多く、続いて膝関節の靭帯損傷が18%でした。スティックによる頭部や顔面の打撲や裂傷(切り傷)も発生しており、その中には眼の損傷も含まれていたそうです。
実体験でも、私自身が2018年の男子世界選手権にトレーナーとして帯同させていただいた際に、選手同士の接触による膝関節の靱帯損傷や、相手選手のスティックが接触したことによるまぶた付近の切り傷の手当てを行いました。
オーバーユース症候群の発生部位
IFFの研究では国際試合での報告を元にしているため、多くはスポーツ外傷に関することでしたが、フロアボールにおけるスポーツ傷害(オーバーユース症候群)について、私の考えを述べさせていただきます。
フロアボールの競技特性から考えられるスポーツ障害の発生部位として、膝関節と腰部が考えられます。
例えば、膝を深く曲げてディフェンスする様子(写真2)がよく見られますが、過度な膝関節の屈伸の繰り返しは関節周囲の筋や靭帯への大きな負担になると考えられます。
また、フロアボールでは体の回転を利用してシュートを打ちます。このとき股関節、腰部、胸部が連動して体を回転させます。股関節や胸部の動きが悪いと腰部に過度なストレスがかかります。そのストレスの繰り返しが障害の発生につながります。
中高生は腰への繰り返される回旋ストレスにより、疲労骨折(腰椎分離症)が発生しやすい時期です。中高生を指導される方は、選手の体の柔軟性についても注意しておきましょう。
次回は具体的な予防のお話
まずは、怪我の発生要因と発生部位について、フロアボールの競技特性も踏まえながらご紹介しました。
IFFの研究結果の一つに、フロアボールは他のトップレベルのチームスポーツよりも怪我のリスクは低かったとも示されてはおりますが、リスクを減らすためには競技者の知識向上がなによりも大切です。
怪我の発生部位・要因を正しく理解するだけでも予防につながりますが、より具体的な予防方法について、次回の記事でご紹介させていただきますので、そちらもぜひお読みください。
佐久間さんご所属のクラブチーム
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